講演会のお知らせ 2024年12月19日(木)21 世紀のジャズとポストブラックネス
英米文学科では、久野陽一教授が担当される「イギリス文化特講 II」において、音楽評論家の柳樂光隆さんをお招きして講演会を開催します。
受講生以外の学内・学外の方の参加も歓迎いたします。事前の予約や参加費は必要ありませんので、ぜひ皆様のご参加をお待ちしております。
題目: | 21 世紀のジャズとポストブラックネス |
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講 演 者: | 柳樂 光隆氏 |
日時: | 2024年12月19日(木)5限 (16:50-18:20) |
場所: | 17号館 3階 17308教室 |
講演内容:
私が音楽雑誌に書き始めたのが2008年。そろそろ16年ほどになる。その間に1000本以 上のインタビューを行ってきた。 私の専門はジャズなので主にジャズ・ミュージシャンへのインタビューが中心だった。おそらく95%以上がジャズ・ミュージシャンだったと思う。その中でも主にアメリカのジャズ・ミュージシャンが多く、その中でも黒人が圧倒的に多かった。同世代のロバート・グラスパーやホセ・ジェイムスらのインタビューが上手くいったこともあったとは思うが、その 後もほとんどが黒人のミュージシャンだったと思う。少なくとも僕がこれ間にやってきた取材の7 割くらいは黒人だろう。16 年、主にアメリカの黒人ジャズ・ミュージシャンの話を聞いてきたら、徐々に彼らのコミュニティから歓迎されるようになってきた。そして、少しずつ深い話が聞けるようにもなってきた。 ちなみに私がライターをやっていた期間はアメリカのジャズが大きく動いた時期だった。 2012年にバラク・オバマが大統領になり、2016年にはドナルド・トランプが大統領になっ た。2012年にはブラック・ライヴス・マターが起こり、2020年には全米各地で大きなデモ にも発展した。2024年、再びドナルド・トランプが大統領に返り咲いた。
その間、アメリカの黒人たちが奏でるジャズの形は変わっていった。そして、彼らがジャ ズに委ねる思いや物語も変わっていた。そして、アメリカの動きに呼応するように、もしくはアメリカの動きから触発されたようにイギリスやブラジル、アフリカでも変化が起こっ ていった。表現したいこと、主張したいこと、作品の中に記録しておきたいこと、そういっ たことが社会の情勢が刻々と変わる中で、大きく変化しているようにも感じた。少なくとも 公民権運動に触発された1950-1970 年代のジャズの表現や主張とはかなり異なるものにな っていることは間違いないと僕は思っている。そうなると参照される先人のリストも変り、 影響源とされた先人の評価や歴史的な意義は変わってくる。その変化は粛々と歴史を書き 換えている。ぼくはこの16年、そんな話をずっとジャズ・ミュージシャンたちから聞いていた。 この講演で過去に登壇した際にはイギリスにおける黒人ジャズ・ミュージシャンたちの歴 史をテーマにしていた。カリブ海やアフリカからの移民たちが自身のルーツに紐づいた音 楽をジャズに取り込んでいく過程について話すことで、イギリスのジャズにとって移民た ちの影響がいかに大きいのかを知ってもらおうとした。 今回はそんなイギリスにおけるジャズ史を踏まえたうえで、2010年代以降、世界中の黒人 のジャズ・ミュージシャンたちがどんな音楽を奏でてきたのかについて、私が実際に彼らか ら聞いた話を引用しながら解説する。世界の流れとイギリスのシーンがどのようにリンク しているかを知ることはこの10年で一気に世界的に知られるようになったイギリスのジャ ズの成功の理由を知ることにも繋がるはずだ。「アフリカン・ディアスポラ」、「脱植民地主 義」といった話がテーマになると思う。イギリスにおける黒人の在り方を知るためにもそういったテーマは欠かせないと僕は思っている。
講演者プロフィール:
1979 年、島根県・出雲生まれ。ジャズとその周辺の音楽を扱う音楽評論家。21 世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本『Jazz The New Chapter』シリーズ、マイルス・デイヴィスを現在の視点から読み解いた『Miles Reimagined』の監修を務める。共著に後藤雅洋氏、村井康司氏との鼎談集『100 年のジャズを聴く』などがある。『WIRED』日本版、『i-D JAPAN』『CD ジャーナル』『JAZZ JAPAN』 『ミュージック・マガジン』『BRUTUS』『ユリイカ』などの雑誌にも寄稿。ジャズに留まらず、数多くのライナーノーツも手がけて いる。『Jazz The New Chapter』シリーズのコンピレーション CD などの選曲家としての仕事も多数。現在、鎌倉 FM「世界はジャズ を求めてる」(毎月第 3 木曜日) 放送中。また、美学校、昭和音楽大学大学院などでも教鞭を執る。
講演内容など詳しくは こちら