橋本 智弘
- Associate Professor (准教授)グローバル文学、文化
私の研究領域は、20世紀後半から現代にかけての英語で書かれた小説です。「英語で書かれた小説」というまわりくどい言い方をするのは、イギリスやアメリカの小説ではなく、アフリカ、インド、カリブといった様々な地域から出てきた作品を指すためです。かつて、西洋列強の帝国主義の拡大の結果として植民地となったこうした地域では、独立以後、英語やフランス語など支配者の言語で創作する作家たちがあらわれました。こうした作家たちによる作品群は「ポストコロニアル文学」(postcolonial literature)と総称されます。植民地主義による収奪、独立国家が直面する困難、混淆的なアイデンティティなどを主題にしながら、現在にいたるまで実に豊かな発展を遂げてきました。
こうした旧植民地地域から出てきた文学作品への関心が私の縦軸だとすれば、横軸となるのがナショナリズムに対する理論的な興味です。植民地支配からの独立を目指しナショナリズムを鼓舞しようとした人々が直面したのは、被植民者の集団内における民族的・言語的・宗教的な多様性でした。雑多な集団をどうやって「ひとつ」にすればいいのか、そもそも「ひとつ」という状態は幻想としてしかありえないのではないか、「ひとつ」であろうとすると必然的に誰かを排除/抑圧してしまうのではないか。1980年代以降に急速に発展したナショナリズム論は、こうしたやっかいな問題を考え抜いてきました。私は、ナショナリズム論の知見に依拠しつつ、ポストコロニアル文学を読んでいます。
縦の「ポストコロニアル文学」、横の「ナショナリズム論」、この2つの軸から成る私の研究領域をさらに複雑化するのが「グローバル化」と呼ばれる現象です。もっぱら経済的・政治的な現象として語られるグローバル化ですが、その波は文学研究にも押し寄せてきました。近年、「世界文学」という用語が取り沙汰され、従来の一国単位での文学研究を刷新し、世界全体を見渡す文学研究の方法が模索されています。これは、国を「ひとつ」として考えることのメカニズムを解明しようとするナショナリズム論の有効性が試される契機でもあります。また、言うまでもなく全人類が共有する課題である地球温暖化と気候変動は、単なる一国/一地域の人間としてではなく、共通の運命を生きる人類の一部としてみずからを捉えること、すこしおおげさに言えば新たな人間像を想像することを要請しているように思われます。茫漠としていながらも確実に見過ごすことのできない「グローバル」という思考の枠をどう捉えればいいのか、そしてどのように文学研究がそこに介入していくのか、作品と理論の研究を通じて考えていきたいと思っています。
研究関心
ポストコロニアル文学/理論
ナショナリズム論
世界文学論
担当科目
Reading、グローバル文学理論、グローバル文化演習など