久野 陽一

  • Professor(教授)イギリス文学・文化

古くて新しいもの好き

 現在はイギリス18世紀の文学、なかでも小説などの散文作品を主な研究対象にしています。しかし最初からこの時代に関心があったわけではありません。いろいろな国のいろいろな時代の小説をぼちぼち読んでいましたが、実のところは20世紀の実験的で前衛的な小説が大好物でした。新しいもの好きです。それがなぜ今は18世紀なのかというと、あるとき「小説の起源はどこだろう」と考えたことがきっかけで、大学院に進学して初期近代小説というくくりの18世紀のイギリス小説を研究対象に選んだからです。そこでは後に新しい「小説」というジャンルを立ち上げることになる試行錯誤の実験が様々におこなわれていました。そこに見られるまだ完成していないがゆえの自由さは、新しいもの好きにとって大変に興味深いものでした。さらに、この時代の歴史文化のあちこちで現代にまで繋がるような近代の萌芽を見つけられることが分かってくるにつれ、それまでの「新しいもの好き」は「古くて新しいもの好き」になっていました。

 もともと英語への入り口は英語圏のポピュラー音楽でした。これに関しても大きな関心を持っていますが、こちら方面については英語圏を飛び出して広がった後、ぐるりと地球を一周。今はグローバルならぬ「グローカル」な音楽文化にもっとも魅力を感じるにいたっています。そこで伝統あるいは地域特性をともなった音楽的なルーツが再生される様を見れば、これもまた「古くて新しい」文化的な実践と言えるでしょう。

 趣味形成に関する統計的な調査によると、大多数の人が10代後半から20代にかけて好んで聴いた音楽を一生聴き続けるそうです。私は古くて新しいものを発見しながら、この調査結果にあらがって生きていきたいと思います。