在外研究中の記録を健気に発信していたのも今では遠い昔というくらいに、このページの更新も疫病に身をすくめる社会と同期するように大いに停滞していますが、すっかり変わってしまったTOKYOの空気のなかで毎日頑張っております。
新しい出会いも、新しい学び捨て(unlearning、今まで蓄えた考えや感覚を脱ぎ捨てること)もありました。そんな2022年、子猫の兄妹と暮らし始めてさらに日夜大忙しの嬉しい悲鳴を上げ続けていましたが、音楽も相変わらずたくさん聴いてきたので、そのなかでわたしの反復する日常に精気と輪郭を与えてくれた素晴らしいアルバムを10枚チョイスしてみます。立場上、人にはアメリカにおけるいわゆるヒット曲や社会的な話題作(BeyonceとかKendrick Lamarとか)のことを積極的に話しているにも関わらず、私的に好むものには強い偏向があって、そこに2022年の音作りのトレンドがさらに傾斜を加えていると思われます。
歌よりも音像に、コトバよりもテクスチャーに、惹かれることが多くなってきています。アメリカ滞在中に、若い世代のアーティストたちによるAmbient music(環境音楽)の盛り上がりを体感し、DIY的な制作と流通が定着している事態を目の当たりでできたことが、そのきっかけともなっています。LAの多動的豊作の巨匠Sam Gendel、TorontoのマルチプレイヤーJoseph Shavason、Londonの無手勝流作曲家Alabaster DePlumeなど、サックスを主に演奏する俊英たちが21世紀のポピュラー音楽を刷新している!と日々感じますし、彼らの曲のなかに漂っているメロウでいながらも挑戦的な雰囲気に魅力を覚えます。ギターロックへの渇望は、Alvvaysの新作でのプロデューサーShawn Everett、そして宇宙ネコ子の新作でのエンジニア中村公輔さんのつくる音のおかげで、十分に満たされました。
コトバ(歌)の方面では、Christian Lee Hutsonの初期中年男性の複雑な繊細さ、あるいは繊細な面倒くささがたまりません。彼は現代のPaul Simonを襲名ということで良いでしょう。最優秀新人賞はYaya Beyに。
リイシューものはもうコレ一択の1960-70sのプロデューサーCharles Stepneyによる幻の一人自宅レコーディング集。時と場所を超えて、4トラックテープにかけられた魔法が21世紀に襲いかかる。音楽としてナイス&スムースに愛おしいのみならず、録音という複製技術が持つ呪術とは?を考えさせてくれる天啓のようなアルバムです。
以下に挙げる作品以外では、Big Thief、Rachika Nayer、Sam Wilkes(6月、そして11月と来日公演を観に行き、どちらも奇跡の夜でした)、Beth Orton(ここにもAlabaster DePlumeが参加)、Horsegirl、まさかの再結成から復活したDuster、Hip-Hopはbillie woods、JazzではJuan Fermin FerrarisとJulian Lage、そして日本のBiSHの12ヶ月連続シングルリリース(曲の質がちょっと…でも律儀によく聞きました)などが2022年のヘビーローテーションとなりました。
10. Florist. Florist
9. Alabaster DePlume. Gold
8. Tom Harrell. Oak Tree
7. Yaya Bey. Remember Your North Star
6. 宇宙ネコ子. 『日の当たる場所にきてよ』
5. Charles Stepney. Step on Step
4. Alvvays. Blue Rev
3. Christian Lee Hutson. Quitters
2. Shabason & Krgovich. At Scaramouche