Dirty Projectors. Bitte Orca

 ただただ息を飲む美しさのクリアヴィニール!2009年の記念碑的傑作、Dirty Projectorsの Bitte Orca のリイシュー盤がアメリカから届きました。
 演奏している本人たちが、どんな音楽?と聞かれてもカテゴライズできないと断言する、きわめて特異な音楽要素の混合体。リーダーのDavid Longstrethによる唯一無二のギタープレイには西アフリカの弦音楽の影響が色濃く、メトロノームのように規則的に反復するリズムはノリのいいR&Bというよりも室内楽のようで、そこに幾重にもレイヤーされる混声合唱。このBitte Orcaと、2018年に発表されたLamp Lit Proseは姉妹作のような関係にありますが、その2枚にはDirty Projectorsだけにしかできない(というかやらない)音楽的エッセンスが濃縮されています。インタビューを読んだりすると、当時メンバーだったAmber Coffmanが、ほんとうにメトロノームを延々と鳴らしながら何時間もリハーサルしていたとか証言しているわけで、これらの曲の構成を理解し実際に演奏し歌うのは、相当に至難の技のはず。
 Bitte Orca 収録の曲では、アフリカ的旋律を奏でるギターと歌から8ビートのサビへ爆発してはまた変拍子で中断、というDirty Projectors文法が明らかな入門曲 M2 “Temecula Sunrise”、そしてAmber Coffmanが歌う M4 “Stillness is the Move” (ビヨンセ妹のSolangeもカバーしている人気曲)から M5 “Two Doves” の流れが奇跡的です。妙にやかましいバックビートがもたらす居心地の良い落ち着かなさ、が、素朴なギターのフィンガーピッキングに飲み込まれていきます。
 こうやってあらためてじっくり聴き直すと、2000年代終わりに出てきたBrooklyn系と括られるバンドたちは、大いにチャレンジングな創作に取り組んで、ゲームの規則自体を書き換えようという意欲に満ちあふれていたのですよね。

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