Fairground Attraction. The First Of A Million Kisses

 Fairground Attraction のデビューアルバム。1988年リリースのUKプレスのオリジナル盤を近隣パトロール活動(という名のレコード屋巡りお散歩)中にたまたま発見。さすがオリジナル盤、レーベル(盤の真ん中のシール部分)がこれまた気絶させられるくらいに格好良い。ジャケット写真と同様、アメリカで活躍した写真家 Elliott Erwitt の作品のようです。
 このアルバムをはじめて聴いたのは、確か高校1年生のとき、当時 Flipper’s Guitar という日本のバンドがもたらす音楽のみならず文化的な薫陶にも真剣に引きつけられていた田舎の少年であったわたしは、彼らが紹介する「ネオアコ」(Neo-Acoustic)というポップ音楽のジャンルに精通しなければ、ボーダーのTシャツを着てもいけないし喫茶店でカフェオレを飲んでもいけないしそもそも東京の街なんて歩いてはいけないにちがいない、と非常にナイーブな洗脳を受けていたわけですが、たまたま故郷に新しくオープンした大型レンタルショップでこのCDを発見して歓喜しました。カセットテープ(!)にダビングしては、通学中、犬の散歩中、試験勉強中、ずっと聴いていたものです。どこかファッショナブルな洒脱な音楽、という程度の認識で聴いていたわけですが、いま振り返ると、「ネオアコ」というレッテルよりもはるかに歴史のぶ厚いアコースティック・スイングという大衆音楽ジャンル、その頬を切り裂く冷たくも心地よい風のような質感とリズムに、すっかり魅了されていたのでしょう。この愛好はいまも変わらず続いています。
 
 面白い話があります。実はここ最近、なかなかに気をつかって慎重に仕上げなければいけない官僚的書類仕事がありまして、それにペンを手に向かいながら、「完璧にしなければダメだ、完璧に。官僚はわずかなノイズさえ許すまい」と自らを追い込んでいるうちに、ふと鼻歌で “Perfect” を歌っていました。このアルバムの2曲目に収録されたFairground Attraction 最大のヒット曲です。 “It’s gotta beeeeee Per-fect! It’s gotta beeeeee Worth-it!” とボーカルのEddi Reader が、軽やかにしかし力強く歌い上げています。worth it という英語の表現も、この曲で覚えた気がします(ちなみにロック好き英語学習者あるあるですが、 “For what it’s worth” (大したことじゃないけど、一応、みたいなニュアンス)という表現は、Buffalo Springfieldの1966年の曲を通じて覚えました)。そんな無意識の呼び声もあって、「そういえば Fairground Attraction のファーストってLPで持ってないよな…」と突然気になりはじめた矢先の出会い、まさにパーフェクトな時宜でした。
 すべての曲が構成も演奏も最高級なのですが、ロンドンの夜にミシシッピを幻想的に投影するようなジャンプブルース風の7曲目 “CLare”、2ビートで心地よくスイングする9曲目 “The Moon is Mine” のBメロへの展開がたまらないです。心のなかで手品を繰り広げられたような気分になる、どことなく懐かしく、いつまでも若々しい1枚です。

 
 

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